前回信用創造について説明しました(預金準備制度と信用創造の本質)。基本的に借金(シャッキン)をするとき、その貸し出されるおカネというのは「銀行預金」であること、その銀行預金は誰かの銀行預金を拝借するのではなく、銀行が新規に発行していること(借金(シャッキン)を正しく理解すること!)、そして、この銀行による新規銀行預金の発行を信用創造というわけですが、この銀行による新規の銀行預金発行の根拠が、準備預金制度という話でした。
しかし、世間一般、例えば高校の教科書とか?大学の経済学の教科書とか?(見たことないので知りませんが)はっきりお示しできるのはWikipediaの信用創造のページ、その他多くの識者の説明、動画、などでは別の説明がされています。Wikipedia的に言うと、私的な説明は、異説、とされるようです。通説が正しいか、異説が正しいか、皆様よくよく考えてください。と言いつつなんですが、これこそ典型的経済学の右回り左回り(完全な誤りとは言えないが、本質が見えなくなり、誤解を与える)だと考えています。
世間一般の信用創造のモデルは、非常にややこしいので図を見ながら、一つ一つたどってみてください。下の図は、それでも登場人物を減らした簡単バージョンです。また、多くの信用創造モデルは、基本的に準備率をわかりやすく10%としていることが多いので、今回のエントリーは準備率10%で統一します。また準備金というのは、日銀に預ければ日銀当座預金と同義です。あと、下記説明は、誤りや誤解を招きやすいように、わざと言葉を選んでいます。そんなことは書いていないとかのご指摘はご容赦願います。このモデルは、貸し出しを現金で行うのが特徴です。
①山田さんが根源的資金、現金100万円をA銀行に預金する。
②A銀行は、現金100万円のうち10%の現金10万円を準備金として残し、残りの現金90万円を貸し出すことができる。
③田中さんが現金90万円を借金して借りる。田中さんはとりあえず手にした現金90万円をB銀行に預金する。
④B銀行は、現金90万円のうち10%の現金9万円を準備金として残し、残りの現金81万円を貸し出すことができる。
⑤佐藤さんが。現金81万円を借金して借りる。佐藤さんはとりあえず手にした現金81万円をC銀行に預ける。
⑥図には書いていませんが、以後、準備率10%分の現金を残して残りを貸し出すことを繰り返す。
上記のモデルで説明したいのは、おカネが増えていく仕組みです。最初は山田さんの現金100万円だけだったのですが(根源的資金)、いつの間にか貸し出しを繰り返すことにより、山田さん、田中さん、佐藤さんの3人の預金通帳には、それぞれ100万円、90万円、81万円=271万円の預金があることになります。あら不思議、100万円が勝手に増えました!!!というお話です。この“いつの間にかおカネが増えている感”がこのモデルの最大の特徴でしょう。ちなみに、このまま永遠貸し出しを繰り返すと、最大でいくらまでおカネが増えるのかを計算することができます。ご興味があれば計算していただきたいのですが、結果的に根源的資金を準備率で除した額に膨れ上がることになります。準備率が10%であれば10倍、1%であれば100倍となります。
まずは上記世間バージョンモデル(又貸しモデルというらしい)を十分理解してください。そのうえで、私がこのモデルの批判を始めたいと思います。批判というか、誤解されやすいことを列挙してみます。
①準備率に伴う準備金は、一体何の準備なのか、この説明では、残りを貸し出すための準備であると勘違いする可能性がある。あくまで、準備金とは発行した銀行預金の準備である。例えばA銀行の準備金10万円は、山田さんに発行した銀行預金100万円に対する準備であって、90万円の貸し出しのための準備ではない。
②信用創造の説明のはずなのに、信用創造されている瞬間が一体いつなのか全く分からない。まさに“いつの間に感”が強く、信用創造(おカネが増える)とは、現金のやりとりで自然に知らない間に起きるものだと勘違いする。あえて言えば、田中さんと佐藤さんが、現金を銀行に預けたときに銀行預金が生まれるため、この瞬間が信用創造と勘違いする可能性がある。
③②に関連して、銀行預金とは、あくまで現金のやりとりの結果であると勘違いする可能性がある。(現金がないと銀行預金は生まれないと信じている人を見たことがある・・・。)
信用創造の瞬間は、貸し出しの瞬間です。貸し出しの瞬間に「銀行預金を新規に発行する」のが信用創造なのですが、直接現金を渡してしまっているため、その瞬間がこのモデルでは出てこないのです。しかし、本来、銀行手持ちの現金は直接貸し出しには使えません(銀行に預けられた現金の秘密)。正確には、A銀行の田中さんに対する貸し出しは、90万円の銀行預金の新規発行であり、その上で、A銀行の田中さんに今発行された銀行預金をおろす形で(交換する形で)90万円の現金が山田さんの手元に届くわけです。ものすごく細かい話をすると、一瞬田中さんに90万円の銀行預金を発行しているため、準備金9万円を日銀に預けた上で、すぐにそれをおろして、90万円の現金を渡していることになります(そこまではいいか・・)。結果、田中さんのA銀行の預金残高はゼロになるので、そのまま現金を手渡ししているのと同じ事なのですが、この手順の省略について説明をしている解説を見たことがありません。
何が言いたいのかというと、信用創造による銀行預金の増加は、“いつの間にか”増えたのではなく、貸し出しの時に銀行預金を新規に発行しているから増えているのです。実に当たり前の話です。それがこの又貸しモデルではわざと分からないようにしているとしか思えません。
④この又貸しモデルは、最初に導入された根源的資金(山田さんの100万円)の現金をつかってしか貸し出せないことを前提とした特殊モデルである。
そもそも根源的資金の現金を使ってしか貸し出せないという、非常に特殊な条件を入れている理由が分かりません。上にも書きましたが、おかげで、世の中のおカネ=現金だと思っている方が少なくありません。最大どれくらい貸し出せるかということを理解するためには、下記の図のような説明で十分です。山田さんが現金100万円をA銀行に預け、100万円の銀行預金を発行してもらった後、A銀行は、手にした現金100万円をすべて準備金として日銀に預ければいいのです。すると、A銀行が扱える銀行預金の額は、100万円を準備率10%で除した額(つまり10倍)である、1000万円となります。すでに山田さんに100万円の銀行預金を発行しているため、A銀行が田中さんへの貸し出しに使える最大の金額は900万円(の銀行預金)ということになります。貸し出しを繰り返す必要は全くありません。
という上の図の説明をすると、田中さんが現金で900万円借りたいと言ったらその現金がないじゃないか!!というお叱りを受けるかもしれません。その通り、この説明では現金による貸し出しはできません。そもそも、根源的100万円の現金があったら、最大いくらの銀行預金を信用創造できるかというモデルですから、はなから、現金による貸し出しを想定していないだけの話です。しかし、良く考えてみてください。世間一般にでまわる又貸しモデルも実は全く同じです。佐藤さんまで貸し出しが終わったところで、最初に100万円を銀行に預金した山田さんが、現金100万円を下ろしに来たらどうするのですか。A銀行には10万円しかありませんよ。もちろん、田中さんも、現金を引き出せません。つまりこの又貸しモデルは、預金した人は現金をおろさないことを条件に、さらに根源的100万円の現金しか貸し出しに使えないということを条件とし、最大いくらの銀行預金を信用創造できるのかというモデルと言うだけのことです。
ということで、世間的な教科書的事項に喧嘩を売ってみました。ただおカネの仕組みをもう一段理解するためには、日銀当座預金に関する理解と、マネタリーベース、マネーストックを正しく把握する必要があります。次回以降、そのあたりを一緒に勉強しましょう。
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