救急外来の裏側(2)
前回、救急外来の裏側では、救急外来での患者選択の問題を中心に書かせていただきました。私は今まで、中部地方某3ヶ所、東北地方某所、首都圏某所の5ヶ所で2次救急及び3次救急をみてきましたが、今回はその体験に基づき、もう少し患者選択の問題点をあらってみたいと思います。
いきなりですが、救急外来とは、基本的に儲かるようなものではなく、スタッフの夜間休日の負担もありますから、基本的にどの病院でもやりたくないのが本音でしょう。正直言えば、私もやりたくありません。何しろ、救急外来をこなしても、翌日は通常の勤務が待ってますし、休日にやっても、振り替えの休日がもらえるなんてこともありません。以前にも書きましたが、何故か我々医師には労働基準法が適応されないようです。
やりたくないのもあるのですが、病院の規模や体制によっては、診るにも診れないことは多々あります。
ある地域の中堅病院で救急外来をやっていた時、胸痛を訴えている患者さんがいると救急車の搬送依頼がありました。しかも、以前心筋梗塞の既往があり、血圧も低下、酸素をしないと呼吸も苦しいというのです。心筋梗塞の再発が予想されましたが、その中堅病院では、緊急で心筋梗塞の治療ができません。そこで私は搬送依頼を断ろうとしたのですが、そこを救急隊がやくざかと思うような口調で脅して近くだからといって強引に搬送してしまいました。もし心筋梗塞だったら、別の病院にそのまま搬送するから、鑑別をしてくれというんですね。搬送されて心電図をとってみると、明らかな心筋梗塞のため、その地域の3次を担当しているはずの「救急センター」という名前の病院(総合病院の救急センターではなく、○○救急センターという名前の病院)に電話をして、搬送のお願いをし、点滴をつないただけですぐさまその「救急センター」へ搬送となりました。
ところが、この患者さんの奥さんからひどいおしかりを受けることになりました。
「あなたは心筋梗塞を診れないのに、なんで救急車を受けたんですか!!、20分30分何もせずに、ここにいる間に何かあったらどうするのですか!!」それはもうひどい剣幕で怒られたんですね。そんなこといわれても困るんですけど、言われることは理解できなくもありません。最初から○○救急センターへ運べば、確かに治療が早く始まったのですから・・・。実はこのエピソード、現在の救急外来の、多くの問題点を凝縮しているともいえそうです。
まず、なぜ救急隊は、救急センターではなく2次救病院へ強引でも搬送したのか?というと、それは救急センターというのを名前にしている病院のくせに、その病院の救急車の受け入れが極めて悪いからにほかなりません。3次救急は3次救急だけを診たいわけです。だから、本当に3次救急かどうかというのを、2次救急病院で確認してから3次に送って来いということを公言しているらしいのです。胸痛というだけでは、本当に心筋梗塞なのかどうかはわかりません。ただの筋肉痛のことだってありえます。そういう1次2次の患者を診たくないから、胸痛というだけでは、その救急センターが受け入れしないことを、救急隊はよく知っていて、搬送先を考えているのです。しかしそのためのタイムロスは、確かに奥さんを激怒させるに十分かもしれません。
では、救急車の受け入れの悪いこの救急センターが全面的に悪いのかといえば、やる気がないことだけは確かですが、気持ちは理解できなくもないのがややこしいところです。この救急センターが3次の患者を積極的に受け入れるためには、2次救急病院が1次2次患者を積極的に受け入れることが前提になるでしょう。しかし、胸痛というだけで3次救急が受け入れの義務を負うとすれば、これは2次救急病院が患者を拒否する格好の理由になってしまうわけです。例え救急隊がどれほど重症感がないことを説明しても、胸痛の患者だと言ってしまえば、「それは3次救急の病院へお願いします」と言われるだけということになります。つまり、2次救急病院の受け入れが悪いからこそ、3次救急の患者しか嫌だと公言しているに違いないわけで、要するに、2次も3次も、お互いにやる気がないから押し付けあう事になってしまっているだけの話なのです。
では、救急隊(消防隊)が、ある程度2次3次の区別がつかないかどうかということが考えられます。が、これがまたいろいろと問題があります。上に書いたエピソードの事をいえば、実は救急隊は心電図モニターを車内で取っていて、心筋梗塞の変化があることを知っていたのです。しかし、これがまた恐ろしいことに、救急隊はそのことをひた隠しにして搬送してきました。要するに心筋梗塞とわかれば、2次病院に受け入れてもらえない、しかし、救急隊が救急センターへ心電図が怪しいといっても信じてもらえない、だったら、黙って近くへ搬送しちゃえというのが本音のようです。救急隊の質にもよりますが、さっさと受け入れてほしいがために、患者の病態を軽くいう救急隊というのが結構あるのです。「軽いめまいです」なんていっておきながら、半身麻痺の人が送られてきたり、「意識清明」のはずの患者が、つねっても反応がなかったりということが実際にあるのです。救急隊も、ある意味、搬送するのが仕事ですから、とにかく受け入れてもらってさっさと仕事を片付けたいと思うことも多いに違いありません。
では、救急隊もどうしようもないのかといわれると、これまた嘘ついてでも搬送してくるにはそれなりの理由が考えられます。その最大の理由は、救急隊すなわち消防署には、搬送先の病院を決定する権利がないということです。あくまで、病院側が受け入れの承諾をしないと、搬送できないのです。以前、薬物中毒の患者を受け入れた時、別の5つの病院に断られ、私の当直していた病院に電話してきたと聞いてびっくりしたことがあります。受け入れ拒否には、何らかの言い訳をしなければなりませんが、病棟が忙しいとか、満床だとか、嘘か本当かわからないような理由で拒否することはよくあることで、これまた要するに、み~んなやる気がないということがすべてなのです。
上のエピソードは、あくまでとある地域の病院群と救急隊の話で、これは地域によって極めて大きな差があります。救急車を決して断らず、各科の医師を当直させている中核病院と、それを支える周辺病院のタイアップが非常にスムーズで、救急隊も救命救急士を多く抱え、万全の体制を整えつつある地域もあるわけです。誰もがやりたくない仕事を、誰かに押し付けるようなことをすれば、悪循環的にどんどんやる気をなくすだけです。病院責任者および行政その他の方々には、ぜひ現場を見て対策を考えてほしいと思うのですが、うわべだけの対策しか取られていないというのが現実なのでしょう。
ということで、また別の角度で、この問題を取り上げていきたいと思います。ちょっと悪く書きすぎたような気もしますが(笑)、みんながみんな、やる気なしおさんではありませんので、安心してください(オイオイ・・)。
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コメント
昨夏、軽度とはいえ心筋梗塞で緊急入院した身にはまったくもってソラ恐ろしい記事ですね。
幸いにも私の場合はやる気ありお先生に診てもらえたので、こうしてコメントを書き込めてるわけで・・・お医者さん及び医療関係者の大半はありお君だと信じます。
投稿: jackyhk | 2006/01/17 21:08
jackyhk様、コメントありがとうございます。
医療関係者の大半が、ありお君と信じていただいているなんて、涙がちょちょぎれました。我ながら、記事全体は悪く書きすぎたような気がしなくもありませんが、ある角度から見た一面を見ていただこうと思った次第です。
ところで、お体の方は大丈夫なんでしょうか。寒い季節ですので十分にご注意ください。
投稿: 彰の介 | 2006/01/17 23:29