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2006/01/13

救急外来の裏側

 先日、家族に病人が出たため、慌てて実家に帰省して、かかりつけの病院の救急外来に付き添っていきました。私は、職業柄やぶ医者をやっていますが、他院ですから、自らの立場は黙ってこの救急外来を患者の立場から見ていましたが・・・、いやはや救急なのか?救緩なのか?救遅?なのか・・・、病院に行った方が体調が悪くなりそうです。

 な~んて言いつつ、実を言うとこの病院、私が医師の卵として研修した病院でして、6年ほど前までは医師の立場でこの救急外来を(当直で)やっていました。この病院、全国的に見て、救急を含め患者の数と医師の数のアンバランスの激しい病院でして、そのエピソードの一部を忙しいは気持ちいい!で記事にしています。つまり、なにをいわん、この私も、以前この救遅外来の一翼を担っていたということです。久しぶりに現場を見てみましたが、何も変わっていませんでした。「救命救急センター」の看板を出しているにもかかわらず、ざっとその場に患者は50名ほど待っており、2時間しっかり待たされました。もちろん、私の立場を振りかざして、早めに診てもらうことは可能だったかもしれませんが、逆に過去そんなワガママ患者に腹を立てたことを思い出し、じっと待っていました。

 なぜそんなに混んでいるのか・・・、全国的にみてこんな混んでいる救急外来はありません。この原因についてはいろいろと考えていることを書きたいと思います。まずは病院側の努力不足、今も昔もスタッフの数を増やそうとしていないことです。研修医を含めた少人数で必死にカルテをさばいているのです。
 実は、「混むのが嫌なら来なけりゃいい」というのが、医療業界の基本姿勢でして、待ち時間短縮のことなんて何も考えていないのが現実でしょう。そして今後もこのあたりの意識改革はむずかしいかもしれません。世の中、いかにお客様に来てもらうかということで多くの企業が血のにじむような努力をしているわけですが、いかに患者が来ないようにするかを真剣に考えている医療業界の意識の異常さは、残念ながらそうそうに変わるものではないと思います。
 ただ、今回診てくれた若い先生は非常に丁寧に診察してくれ(私は密かに寄り添っていただけなので、私が医師だと知らない)、専門医に話してくれました。まあ、来なけりゃいいと文句は言いつつ、決して手を抜いているわけではないという部分は今も昔も変わっておらず、ちょっと安心しました。

 混む原因のもうひとつは、この病院が患者選択をしていないという点です。救命救急センターというのは、いわゆる3次救急(重症の患者)を診ることをその仕事としているのですが、実際には風邪の患者など軽症の患者が山ほどきているのが現実で、その中に混じった本物の重症患者の診療が後回しにされているのです。しかし、患者からみれば自分が軽症か重症かなんていう意識はありませんし、医療側からみても、実際に診察や検査をしてみないと本当の重傷度はわかりません。救急車で来院した患者が重症で、歩いてくる患者が軽症なんて思っていたらとんでもない間違いを起します。
 以前、NHKのプロジェクトXで、日本最初の救命センターの立ち上げの様子が紹介されていました。この中で、指を刃物か何かで切ったという患者がこの救命センターを訪れた時、軽症の患者を診ていたら重症の患者が診れないという理由で、この患者の診療を断ったというエピソードを紹介していました。至極もっともな話のようですが、こういう患者選択をしていたと知って、興ざめしました。患者選択をしながら重症患者を診たって何の価値もないし、そんなのは極めて楽なことだというのが、この混み混み病院で働いていた私の考えです。

 そうは言っても、理想的には救命センターは3次救急に専念すべきでしょう。そのためには、できるだけ1次2次の患者は地元医師会の先生方に診て頂きたいわけですが、これがまた、そういう厄介な仕事を回避することを最も得意としているのがこの医師会なのです。いわゆる夜救診、休日診療というものを開いているようですが、この地域では機能していないといっていいのではないでしょうか。その一方で、総合病院に外来ブースを1つ増設するなんていう話があると、「外来患者が取られる」といって大反対するのも医師会です。だから、「夜間、休日の患者をどんどんを奪ってください」と声を大にして言いたいですね。

 そんなことで、医療従事者ネタのつまらない話で申し訳ありません。次回もちょっと救急ネタを書きたいと思います。無駄にお付き合いいただけると幸いです。

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コメント

救急外来の問題は、すべての人にとって他人事では、ありません。ぜひ、問題点をどんどん書いて頂きたいと思います。ミケ

投稿: 屋根の上のミケ | 2006/01/14 00:47

屋根の上のミケ様、コメントありがとうございます。
今後も医療界の裏を暴く「黒い巨塔シリーズ」を続けていきたいと思っています。が、医療界にもいい部分がたくさんありますし、それも交えて、いろいろばらしていきたいと思います。あまり期待せずお待ちいただきたいと思います。

投稿: 彰の介 | 2006/01/14 11:32

♪こんばんは。
救急外来用のトリアージがあって、そこが症状によって患者を振り分ける、そんなシステムが構築出来ればいいのでしょうね。
その場合、重症患者に対応する病院と軽症患者に対応する病院との間で、損得勘定が成立しなければいいのですが、そのあたりはどうなんでしょうか?

投稿: あざらしサラダ | 2006/01/14 21:06

彰の介さんの話や知人の医者の話を聞く限りでは、医者は不足しているようですね。
絶対数が足りないのか、仕事が偏っているのか。市場原理を導入せよというのが、きわめて単純な解決策なんでしょうけど、そうもいかないんだろうなぁ。。

投稿: ひろ | 2006/01/15 02:27

 妻が看護師をしている関係もあって救急医療の体制というのは気になります。ちょうど結婚前は救急外来に勤務していたのですが、救急車をタクシー代わりに使う軽症患者がいると聞いたときには呆れました。
 出来ることなら救急車での搬送の段階である程度ふるい分けが出来ると良いのではないかと素人考えで思います。

投稿: アッテンボロー | 2006/01/15 15:42

あざらしサラダ様、ひろ様、アッテンボロー様、コメントありがとうございます。
患者さんの重症軽症の話はまた次回エントリーで私のエピソードを交えつついろいろと問題点を探りたいと思っています。実は、患者の重症度をより分けても、受け入れる側の病院の問題もあり、うまくいくかどうかは不明なんですね。
救急医療の損得、これについてもいろいろと考えていることがあり、またいずれ記事にします。医師不足・・・、医師会は医師過剰時代といってます。本当なんでしょうか?。救急車をタクシー代わりに使う・・・これも大問題ですが、我々の立場でこれに文句を言うと、使った患者から逆ギレされることが多いです。これも考察の余地がありますからまた記事にしましょう。
ということで、皆様のご意見を元に、医療の真の裏側をばらそうと思います。が、身の危険を感ずればすぐやめます(大爆笑)。

投稿: 彰の介 | 2006/01/15 21:41

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