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2006/09/24

精神科というところ

 記事を見つけられませんでしたが、以前、精神科入院中の患者が、外泊中に殺人事件を起こした事件がありました。朝のニュースを見ていたら、この被害にあった家族が、この精神科病院を相手取って訴訟中とのことでした。つまり、外泊させたのが本当に適切であったかどうかが問われているわけですね。このことに関する私見と、私の抱く精神科への疑問を書いてみようと思います。私は、職業柄やぶ医者をやっているわけですが、内科医も精神科医も基本的に医師としては同業なので、批判めいたものは書きにくいのですが、こっそり本音を漏らしちゃいます。やばい?。

 結論から言うと、上記裁判で家族が勝つのは大変難しいと考えます。なにしろ、この精神科の患者が、殺人を犯すということを予見できたということを証明するのは並大抵のことではないと考えるからです。結果論から言うと殺人を犯してしまったわけですが、そもそも外泊が許されるくらい症状が落ち着いていた事実をならべられたら、殺人の予見はできなかったということで終わりのような気がします。もちろん、この案件について何か知っているわけではありませんので、一概に言えませんが、一般論として、これで病院の罪が認められるようならば、精神科系の病気を持った患者は、みんな強制隔離すべきという話になってしまい(いつ殺人を起こすかわからないから)、人権的にも大いに問題があるように思います。

 ただ、逆に、この病院が、十分責任を持って患者を管理していたかどうかはなんともいえません。裁判で負けないということが、十分な管理がされていたことを意味するわけではないからです。私は内科医として仕事をしてきましたので、精神科専門病院の実際というものを知らずに物を語るということでご批判があることは覚悟しています。また、きっとお互い様というところもあると思いますので、めくそはなくその議論かもしれません。自分達の立場は棚に上げて、なぜに私が患者の管理について疑問を持つかというところの、理由を述べようと思います。

 例えば、アルコール依存症(アル中)の人がいるとします。家族が何とかアルコールから抜け出してくれないかとわらをもすがる気持ちで、アルコール依存専門外来を開いている精神科を訪ねたとしましょう。何しろ専門外来ですから、そこで診てもらえば何とかなる・・・と誰しも思うでしょうが、実は、治療を受けるためには、意外なハードルが存在します。治療の前にまず聞かれること、それは、本人の治療意思の有無です。つまり、アルコール依存の本人に対して、「アルコールやめる意思はありますか?」と聞かれるわけです。そこで、「ハイ」と答えればいいものの、「酒をやめられるわけねえだろ!!」ってな返事をしようものなら、「あらそうですか、ではお帰りください」で終了です。本人にその意思がなければ、門前払いされるわけです。それは、いくら家族がやめてほしいと思い、懇願しても関係ありません。本人にやめる気がないのに、治療しても無駄というわけです。

 正直言うと、こういう精神科の姿勢というのは、内科医から見るとお気楽としかいいようがありません。例えば、アルコール依存の人は、肝臓を悪くし、肝硬変になる人も少なくありません。酒を飲んでは肝機能が悪化し、救急外来にかかる人や、 ひどい場合吐血して緊急内視鏡(胃カメラ)を施行しなくてはならないという人もいます。いずれにしても、お酒をやめるのが唯一の治療なわけですが、それができないからといって門前払いにはできません。口から血を吐いている酒臭いアル中のおやじに、「飲むなって言っただろ!!、帰れ!!」とか、「飲むなら二度と病院にくるな!!」・・・なんてことは、内科医は決して言えません。なにかしら症状があるのなら、その症状に対する治療をしなくてはならないのです。

 精神科領域の患者さんは、時に(自殺企図などで)、出されている薬をいっぺんに飲んでしまったり、農薬や化学薬品を飲んでしまったりする、いわゆる急性の薬物中毒を起こすことがあります。しかし、全ての精神科病院というわけではありませんが、かかりつけの病院が、こういう患者を引き取らず、救急車を受けないなんてことが多々あります。薬物中毒は内科が診るもので、精神科じゃないから知らな~いっていうわけですね。何でそんなに無責任になれるのか、私なんか不思議でしょうがありません。また、以前衝撃的だったのは、何度言っても薬を大量服薬して救急外来にやってくる患者に対して、精神科の先生が「もう飲まないって約束したじゃないか!、もう俺は診ない!!」って言って帰ちゃったことですね。そんなの怒ったってしょうがないですし、俺は診ないって言ったって、誰かは診なくちゃいけないんですから・・・要するにその場にいた内科医の私が診るはめになったわけで、そんな態度は、まさにお気楽商売としか思えないのですが・・。

 とは言え、我々は何かと精神科の先生にはお世話になることも多く、愚痴はこそこそこんなところでしか言えません。で、何が言いたかったかといえば、もともと精神科という領域は責任論という意味では上記のとおり特殊であって、入院患者が殺人を犯すかもしれないという責任論的な危機感があったかどうか、私はついつい懐疑的になったという話です。私なんかは病気のせいだと思うことも、専門的には本人が悪いということなのですから、「人を殺すなんて言ってなかった」って言うのが、この裁判の重要な証拠になってしまったりするのかもしれません???。

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