新・救急外来の裏側
私は職業柄やぶ医者をやっていますが、過去に救急外来について記事にしたことがあります。特に、救急車などの患者受け入れに関して、その問題点について、救急外来の裏側(2)で気合を入れて語らせていただきました。
しかし、昨今の関西地方に多い、救急車の受け入れ拒否について、再度意見を述べさせてください。なぜ、このような受け入れ拒否が多いのか、その理由を私なりに考え書かせていただきます。ちなみに、報道によれば、医師不足の影響などという結論にしているところもありますが、はっきりいって、全然関係ないと思います。
30病院に拒まれ死亡 大阪の89歳 到着まで2時間、こんなニュースがテレビ、新聞で報道されました。しかも、こんなことが大都市圏の大阪で起こっているのです。
大阪府富田林市で、下痢や嘔吐(おうと)など体調不良を訴えて救急搬送された同市内の女性(89)が、府内の計30病院に受け入れを拒否された末、約2時間後に搬送された病院で心肺停止状態となり、翌日夕、死亡していたことがわかった。受け入れを拒んだ病院の多くは「別の患者を処置中で対応できなかった」などと説明している。こんな、信じられない、嘘のような本当の話が、何度も起こっていることはとんでもないことです。
はっきり言いますが、30病院どこも忙しくて受け入れられなかったなんてことは、絶対にありえません。処置中など、言い訳に過ぎません。また、ベットが満床?ベットに余裕が無い?といって断った病院も実に怪しいものです。厳密に言えば、満床であることと、救急車の受け入れの問題は別問題です。記事によれば、一度かかったことのある患者しか診ないといって断った病院があるようですが、はっきりいって、こんな病院、普段から、かかりつけの患者でも、処置中などといって断っているに違いありません。
だから私が、これら断った病院がサボっていると言いたいのかというと、実はそうでもありません。ぜひ、予習までに、読まれていない方は救急外来の裏側(2)を読んでいただきたいのですが、この搬送拒否の最大の問題点は、おそらく、大阪の3次救急(最重症の患者を診る救命救急センター)の体制に問題があると確信しています。その問題点が、別の記事の中に書いてあるのですが、
富田林市消防署長らは、重症患者を治療し、府内に13か所ある救命救急センターに要請しなかったことについて「容体は安定しており、病院を探している間に急変した」と説明した。なんと、30病院に断られているのにもかかわらず、府内の救命救急センターには受け入れの有無を問い合わせていなかったのです。
2時間近くも病院を探しているのに、救命救急センターに問い合わせすらしなかったのはなぜか?、その答えは、記事にあるように、もともとこの患者の病態が安定していたため、救命センターへ運ぶべき患者ではないと判断したからなのでしょうが、その意味するところは全く逆で、「大阪の救命救急センターが、安定している患者の搬送を拒否している」実態を浮き彫りにしているのではないかと考えます。私はこの救急隊の対応が、どうしても理解できないのですが、やっぱり問い合わせすらしなかったのは、明らかにおかしいと言わざるを得ません。絶対断られるという確信がないと、問い合わせすらしないということを説明できないと思うのです。つまり、救命救急センターが、普段から「その患者は3次の病態ではないから2次病院へ搬送してくれ」と相当に拒否されているからこそ、問い合わせすらしなかったのではないかと考えているわけです。
私は、2つの救命救急センター(もちろん3次救急)併設病院に勤務歴がありますが、両病院とも、一切の「患者選択(=患者の選り好み)」はしていません。救急隊から連絡があれば、原則全ての患者受け入れです。そうするとどうなるかと言えば、残念ながら3次救急でありながら、1次救急の極めて軽症の患者から、心肺停止の真の3次救急まで、全ての患者が運ばれて来ることになるのです。近隣の病院全てに断られ、わざわざ1時間以上かけて、一次二次の患者が救急車で運ばれてくるのことも、日常茶飯事に経験しています。それを考えると、この大阪の現実が、全く理解できないのがおわかりいただけるでしょうか。
3次救急病院が3次救急の患者を担当し、2次救急病院が2次救急の患者を担当するというのは、はっきり言って机上の空論、全くの理想論に過ぎません。なぜなら、見た目の安定度と、真の重症度は、診察して、検査をしない限りわからないからです。上記89歳のおばあさんは、何次救急の患者だったのでしょうか。結果からいけば、明らかに3次救急の患者です。お隣の奈良県で起こった、妊婦たらい回しにおいて、奈良の救急救命センターは、2次病院へ搬送してくれと、自院への搬送を断っていますが、その後この妊婦が死産した結果を考えれば、この患者は本当に2次救急の患者だったといえるのでしょうか。
そう考えると、大阪の救命救急センターの「患者選択」の実態をはっきりさせることこそ、問題の本質だと感じているのです。つまり、3次病院に受け入れ拒否がなければ、起こりっこないことなのです。
卵が先か、鶏が先か、2次病院の怠慢が先か、3次病院の患者選択が先か・・・、おそらく両方同時に悪循環に陥り、現在の状況があるのでしょうから、本来、私の意見のような、3次救急病院のせい、かのような発言は問題があるかもしれません。
最近、「医師が疲弊している」的な報道がたくさんされるようになり、我々医師の実態が表に出ることはいいことだなあと思いつつも、実際この件のようなことまで「疲弊している」的なことでごまかそうとすることは、単なる医師の怠慢としか思えません。まあ、正直私がそれほど仕事熱心ではなく、すきあらば楽しようという人間ですから、あまり大きなこというとお叱りを受けることになりそうですが・・・。
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コメント
初めまして。
記事の検索で辿り着きました。
ランキングのクリックもさせていただきました。(^^)
私のブログはたいしたことないのですが、
医療関係者と思われる方々から反論のコメントが多くて困っています。
書き方が悪いせいでしょうか。
素人が意見するな!的なコメントが多いなかで、このように内側から見た意見はとても参考になります。
投稿: FJX01 | 2008/01/03 23:22
FJX01様、コメントありがとうございます。
こんなブログですが、読んでいただけて光栄です。
正直に言いますが、昨今のマスコミによる医療批判は、基本的に「批判のための批判」が多いと感じています。このような「たらい回し」系の記事も、内情はあまり調べず、ちょうどいい批判記事になるからと書かれているものも多いと思われます。
ただ、だからと言って、30病院に断られるのは、キャパシティがどうのこのという貴ブログのコメント欄に見られる問題ではないので、こうして記事にしています。医師の怠慢をキャパのせいにしてはならないと思っています。そのあたり、私自身は2次救急、3次救急での勤務歴があるので、誰からどんな文句を言われても、正々堂々言いかえす経験がありますが、なかなかFJX01さんの様に、普通の感覚を普通に記事にすると反発されるかもしれませんね。
私も一方的な見方をしているわけではなく、医師のひどい労働環境は訴えたいし、かといってそれを言い訳にした怠慢系には物申したいのです。そのあたり難しいのですが、またおいおい、裏側を暴露していきます(医師会から横槍が入らなければ・・・)。
投稿: 彰の介 | 2008/01/04 16:47
「病院の傲慢だ!」
「それでも医者か!」
「『医は仁術』は死語になったのか」
「命より金儲けのほうが大事なのか」
「患者を受け入れられない病院は看板を返上しろ」
「殺人病院だ!」
「病院が妊婦を殺した!」
「ベッドが無い?そんなの理由になるのか!」
「ベッドが無ければ廊下に寝せればいいじゃない」
「熱意が欠如している!」
「救いたい!という気持ちが無い!」
「ドラマのような熱意のある医者はいないのか!」
そういう、今の医療の窮状に無理解な輩の暴言が、限界状況で頑張っている医師の心を折った事で、医師不足(具体的に言うと、勤務医不足)に拍車をかけているんですよね…。
こうして救急受け入れ問題は更に悪化する…と。
医療破壊活動ご苦労様です。
投稿: 都筑てんが | 2009/01/09 07:59
都築てんが様、コメントありがとうございます。
医療破壊活動とご評価いただき痛み入ります。
現場に立っている自分の本音は、周辺病院がしょうもない理由で搬送を断り、結局断らない自院に患者搬送が集中し、頭に来ているということです。
投稿: 彰の介 | 2009/01/10 00:18
この人ね~、色んなところに処構わず(死んでいる人のブログにも・苦笑)全く同じ文章を張り付けまくってるから、相手にしない方が良いですよ。
スパムだっていうことも気付けない可哀相な男の子なんだから、そっとして置いてあげてくださいね。心の病が再発しちゃっても可哀相だし。(それともまだ障害者手帳持っているのかな?)
投稿: 通りすがり | 2010/01/11 00:09