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2010/06/10

夕張診療所の受け入れ拒否報道について

 先週末、研究会のため東京に行ったのですが、研究会終了後、あざらしサラダさん、dawnさんと「密会」しました。こうしてばらしていますが、「密会」です。いろいろなお話を聞けて、大いに刺激を受けました。機会がありましたら、多くの違う分野の方々と意見を交わしたいと思っています。

 この場でも少し話題に出たのが、「夕張市立診療所:自殺図った男性の救急受け入れ拒否」という報道の話題です。抜粋したのが(ちょっと改変)下の記事です。

夕張市は、市立診療所が、自殺を図り心肺停止状態になった男性の救急受け入れを断っていたと発表した。市の説明では、首をつり自殺を図った男性(心肺停止状態)を診療所に受け入れ要請したが、外来患者診療のため、対応不可能として断られたという。市立診療所の村上医師は「首つりと聞いて検案(死亡確認)のケースと判断した。緊急性が低く、自分は外来もあったため、他の医療機関で対応してもらいたいと伝えた」と話している。・・・・・

 夕張市立診療所(夕張医療センター)と言えば、財政破綻した夕張市にあって、地域医療のために孤軍奮闘している、同診療所の村上医師の様子が何度もテレビで報道されています。この診療所で救急患者の受け入れ拒否があったという内容の記事ですが、ネットではその報道姿勢に批判が出ているようです。当の村上医師も反論しています(なぜ私は救急患者の受け入れを拒否したのか)。
 私は職業がらやぶ医者をやっている関係で、救急外来の裏側を何度か記事にしていますが(救急外来の裏側救急外来の裏側(2)など)、今回の報道について私なりの意見を書いてみたいと思います。

 まあ、おおよそ、私の意見もネットの論調と同じなのですが、なぜこのような報道がされたのか全く理解できません。なぜならば、「救急車のたらい回し」が以前話題になりましたが、はっきり言って受け入れ拒否というのは、日常茶飯事な話題なわけで、日本中で一体何件の受け入れ拒否があるのかわからないほどです(少なく見積もっても一日数百件規模か?正直いえば、数千件に上る可能性あり)。それは、北海道に限ったとしても、年間数件なんてことは当然あり得ません。そんな状況の中で、どうして夕張診療所のみが、受け入れ拒否を批判されるのか、それが全く理解できないわけです。要するに、他にも山ほど、拒否をして批判されるべき医療機関はあるはずなのにどうして批判されないのでしょうか。

 今回の場合、患者が亡くなったということが問題なのでしょうか?。無論、心肺停止の患者についても、日本中で受け入れ拒否があるのは明らかで、これも夕張診療所に限った問題ではないと思われます。しかも、今回の場合、受け入れ拒否による時間のロスが死因とは全く考えられません。おそらく、記者としては、夕張診療所の不適切な対応で患者が亡くなったとしたいのでしょうが、そう考え、立証することははっきり言って無理でしょう。

 ただ、記者が夕張診療所だけを批判していることは理解できないとしても、「他の多くの病院が受け入れを拒否しているから、夕張診療所の拒否も許される」という理屈は当然通じません。私は、多くの医療機関で受け入れ拒否が日常茶飯事に起きていること自体が問題ではないと思っているわけではないのです。このあたり、受け入れ拒否の実態と裏側については、別の記事で身内批判をしたいと思うのですが(売国奴的な記事・・・)、じゃあ、夕張診療所はそのあたりどうなのかと言えば、今回、その夕張診療所の実態を知って、ちょっと驚いているところです。

 夕張診療所の村上医師の反論にも書いてありますが、この診療所の常勤医はこの村上医師のみであり、それでいて、19床の入院施設を持ち、40床の老健も併設というのですから、これだけでも相当に大変な勤務だと想像されます。さらに在宅医療を行いながら、特老やグループホームとも提携して対応しているというのですからびっくりです。実際、何人の非常勤医師がいるのかわかりませんので一概には言えませんが、一人の常勤医でこの規模の仕事をこなし、さらに救急車を普段は受け入れているというのですから、私はもう脱帽の一言で、とてもまねできません。村上医師には過労死しないように気をつけていただかねば・・・。

 この村上医師のハードワークだけでも、救急車の受け入れは難しいということが簡単に想像できるのですが、さらに、この医療機関があくまで診療所であり(定義上19床以下は病院ではなく診療所)、皆様が普段かかっている、お近くの開業医さんと立場は全く変わらないということを考えなければなりません。普通、開業医さんのところへ救急車をどんどん運ぶということはあり得ません。ましてや、心肺停止患者おやです。このあたり、村上医師のいわれている、救急指定の病院ではないということだけでも、十分搬送される理由はないということになると思います。そう考えると、やはり、今回の報道がいきすぎであるということは明らかではないでしょうか。

 また、この件で、市長が「このようなことが二度と無いように・・・」的な謝罪を行ったようですが、これもおそらく村上医師ははらわた煮えくりかえる思いだと感じます。救急車をみろというのであれば、常勤医師を連れてこいといいたいでしょう。何もしてくれないくせにという気持ちがイヤというほど伝わってきます。

 まあ、あえて村上医師の反論に物申すとするならば、鬱病の対策をいくら行政がしたとしても、自殺者がゼロになることはおそらく無いわけで、今回の自殺者が出たのは行政のせいかのような言い方はどうかと思います(ただ、行政は確かに何もやっていないようですが・・・)。そのせいかどうか、ネットを見ていると、一部、自殺者だから診なくていいと勘違いしているような意見もありますし、診療所の状況が上記のような状況の上に、「自殺者を」診る必要はあるのか・・という医師の本音が見え隠れするところは、気になるといえば気になりますが。

 ということで、私の結論は、「この診療所に受け入れ拒否の批判をするのは、酷すぎる」ということになりましょうか。私自身、受け入れ拒否自体がいいことだとは全く思っていませんので、「酷すぎる」という表現としましたが、上記考えていただければ、普段受け入れているだけでもすごい話で、今話題の夕張診療所だから叩けばニュースになるというだけの記事であることは明らかです。
 私の立場からは、日常茶飯事的に起きている受け入れるべき病院の受け入れ拒否について、次回?そのうち?チクリたいと考えています。

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コメント

先日はどうも、また上京の際はご連絡下さい。

私は、この件の一番の問題は市(市長)の対応だと思っています。
村上医師に限らず、今ほとんどの「現場」では、できる限りのことを精一杯やっている。
そうした「現場」の苦労を全く把握しないで保身に走る「責任者」がいると「現場」は辛いだろうなあと思います。
本当に「自分がやってみろよ」と言いたくなりますよね。

そういう意味では、先日も話題になりましたが、今のマスコミって「現場」の目線じゃなくて「責任者」(=「権力者」)の目線で報道する組織に成り下がっているなあと。
ただし、これも報道の「現場」じゃなくて上昇志向あふれる一部の「責任者」のせいかも知れませんが、w

投稿: azarashi_salad | 2010/06/13 06:46

 あざらし様、コメントありがとうございます。
 私も上の記事で書いたように、市長の対応は、現場を激怒させるに十分だったと考えますね。政治家も、行政も、情に流されてはいけませんが、最低限の現場の事情というもは見る努力をしないと話になりません。
 ところで、確かにマスコミの姿勢は、権力者目線かもしれません。あるいは、都合に合わせて、現場目線と責任者目線をうまく使い分けているような気もします。いずれにしても「叩く」が目的だとそうなってしまいますね。

投稿: 彰の介 | 2010/06/14 09:20

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