銀行に預けられた現金の秘密
表題に掲げたような話は全く世の中に出てこないので、ここで書いておきます。世の中に出ないどころか、経済学の右回り左回りで、いかようにも説明できるため、経済を勉強している方でも勘違いされている方が少なくないお話です。
前回の「銀行預金とは何だろう?」を復習してみましょう。我々が現金を銀行に持ち込んだ場合、「現金を預かってもらう」というイメージですが、実際は違うという話でした。我々は「銀行預金」というデジタルな数字のおカネを発行してもらい(あえて言えば通帳への印字)、その代わり現金自体は銀行のものになるということでしたね。
非常に頭のいい方は、まるで現金が「銀行預金」と「現金」の2倍になったかのような話に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。これは非常に難しく、この話こそ専門家でも勘違いしていることが多い事象です。別の機会にも話すと思いますが、今回はさわりを説明します。
ここで、大事なことを一つ説明し忘れていました。銀行預金というデジタルなおカネというのは、銀行が管理はしていますが、間違いなく我々のもの(資産)だと言うことです。決して銀行のものではありません。銀行にとっては、我々の銀行預金に利息を払わなければならないため、銀行のものどころか銀行にとっては「負債」となります。その代わり、預かった現金は「銀行のもの(資産)」と言うわけです。ですから、銀行にとって銀行預金を発行し現金を金庫にしまうというのは、ただただプラスマイナスゼロと言うだけで、決しておカネが2倍になった訳ではないのです(注1)。
さて、そこで表題の、銀行の「金庫の中の現金」ですが、これは絶対に銀行のものと言いきりました。であれば、銀行はこのおカネを自由に使うことができるのでしょうか。特に問題無く自由に使えそうですが、実はこれが全く自由には使えません。「金庫の中の現金」というのは、勝手に世に出して使ってはいけないおカネなのです。
使えないお金である銀行の「金庫の中の現金」を、世間一般で使えるお金にするにはどうしたらいいのか。それは、我々が現金の預け入れをする行程と全く逆のことをすればいいのです。難しく考える必要はありません。我々が日常普通に行っている、「現金をおろす」行為を行えばいいのです。つまり、銀行の窓口でも、ATMでもいいですが、例えば、10万円の現金をおろすのです。そうすると、何かが変わっていませんか?。そう、例えば私が10万円をおろしたとしたら、私の銀行預金の残高が必ず10万円減っています。銀行の「金庫の中の現金」が世の中に出るためには、必ず誰かの銀行預金の残高を減らす、別のいい方をすれば、銀行預金との交換をする必要があるわけです。
先ほどの話と同じなのですが、銀行預金は銀行の負債、金庫の中の現金は銀行の資産ですから、銀行の資産の現金が外に出てしまう(銀行のものではなくなってしまう)代わりに、負債の銀行預金が減ってくれるので、銀行にとってはプラスマイナスゼロで損得ありません。どうしても銀行のおカネだからといって、銀行の支店長がそのお金を使いたくても、ちゃんと支店長の預金残高を減らさなくては、たばこもアイスも買いには行けないということです。
ちなみに、銀行は、金庫の中に現金をたくさん持っていると、銀行強盗などのリスクがあるからでしょう、あまり現金は持ちたくないようで、銀行の銀行と言える日本銀行(日銀)に現金を預けます。日本銀行には、各銀行の口座があり、その預金のことを日銀当座預金と言います。我々が銀行へ現金を預金し、現金を下ろすように、銀行は日本銀行に現金を預け、日銀当座預金をおろす形で、現金を調達するわけです。繰り返しますが、こうして調達した銀行手持ちの現金は、世間で使えませんからね。誰かが、銀行預金を減らす形でおろさないと、世に出ませんよ。
と、銀行手持ちの現金について書いてきたのですが、一般に、我々が銀行からおカネを借りる事を説明する場合、ごく普通に銀行から現金が貸し出されるモデルで説明されます。典型的な経済学の右回り左回りですが、銀行から直接現金は借りられません。なぜなら、誰かの銀行預金を減らさなければ現金は世の中から出てこないからですが、そのあたりの説明は次回です。そしてこれが、おカネのシステムの山ですが、ご興味のある方は、引き続き私と勉強しましょう。
(注1)若干説明不足の可能性がありますが、おいおいご理解いただけると思います。
かなり前からツイッターに登録しています。あまりつぶやいていませんが。
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